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羊皮紙に眠る文字たち―スラヴ言語文化入門

ここ数年某試験を受験しているので、8月以外の11ヶ月間は仕事or学習中の税法の本しか読まない、というトンデモな生活を送っている。
でも今は8月だ!遊びももちろんだけど、本も読まなければ…と手始めに読んだのがこの本。
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実はこの本、今までに何度も図書館から借りて読んだという、「愛読書」のうちの一冊である(もう買えばいいのに)。著者の黒田龍之助氏は以前NHKのロシア語講座の講師をしていたらしいが、私はちょうどその1年間海外に住んでいたため、彼の講義を楽しむことができなかった。彼の講義? そう、黒田氏は大学のセンセイなのである。そして大学での外国語授業の端々は「水曜日の外国語」なる著書にあらわれていて、なかなか楽しそうなのだ。

今回はスラヴ言語、特に文字に関する話や中世スラヴ語がメインである。スラヴ語というとまず思い浮かべるのが「キリル文字」であり、ラテン文字に慣れている私たちにとっては「わけわからん」文字の一つであろう。
ここでカミングアウトさせていただくと、私は中学1年生の時に「ロシア語クラブ」なる学校の必須クラブに入ったため、ロシア語のアルファベットにはそんなに違和感がないのであーる。しかしロシア語を学んだのは人生でその1年(しかも週1回)だけだったため、今では全く読み書き不可能となっているのでございます(そんなら書くなよ)。ただ、同時期に始めた英語はbe動詞や冠詞があるのに、ロシア語はそれらが無いから簡単でいいな~と思った記憶がある(これはたぶん格変化や動詞の体まで文法が到達しなかったからだろう)。

それはさておき、スラヴ語の文字ができた頃、文字には2種類あったのだそうだ。一つは「キリル文字」、もう一つは「グラゴール文字」である。文字の始まりははっきりしている。9世紀にコンスタンチンとメトディーという兄弟が、当時のビザンチン帝国皇帝のミハイル3世に命じられて作ったのだそうだ。ところがこの兄弟の作ったのは、今では使われることのない「グラゴール文字」らしい。この本のメイン部分である「文字をめぐる物語」という章にグラゴール文字とキリル文字にまつわるいろんな話が書かれているが、中世ヨーロッパお決まりの「宗教・政治」一体+言語という状況が展開される。この辺は言語学、特に文字論に興味がないとキツイかもしれない。私は言語学愛好家だが文字論には興味がないため、いつも適当に読み流している(おいおい)。

私はスラヴ語とはほぼ無縁の人生を送っているが、スラヴ語の学者のエッセイに波長が合うらしい。チェコ語といえばこの人!といわれる故千野栄一氏の本はほとんどハードカバーで購入し、若かりし頃はチェコの古本屋に思いをはせていたのだが(「プラハの古本屋」という著書がある)、黒田氏の言語エッセイも相当いい線にきていると思う。あまりエッセイは書かれないが、ポーランド・ロシア文学の沼野充義氏(スタニスラフ・レムの翻訳者である)、マケドニア語の中島由美氏のも面白かった。

ン十年ぶりにロシア語でもかじってみるか、と本屋でテキストを開いてみたのだが、文法項目を見ているだけで「だーめだ、こりゃ」とあきらめた。一目見てわかる難しさ。うげげ。
文法など全く知らずに「私は日本人です」とか「これは椅子です」などと、TVロシア語講座を見ながら発音練習していた頃は幸せだったなあ。

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