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WIND & WUTHERING / GENESIS

昔々私がロックを聴き始めた頃、ロックミュージックの世界はプログレが衰退し、パンク→MTV、ヘヴィメタルと移行する頃だった。そんな中、私が最初に聴いたジェネシスの曲はTurn it on Againだったと思う。

その頃クイーンやホワイトスネイク(キーボードはジョン・ロードなので、ハモンドオルガン系)に傾倒していた私は「なんだ、このキンキンしたシンセは」と何の気にも止めなかった。
その後あっという間にジェネシスのドラマー&ヴォーカリストであるフィル・コリンズがソロでヒットを飛ばし、彼は私がいつも見ていたベストヒットUSAの常連となってしまう。そして86年にはジェネシス本体もInvisible Touchの大ヒット。その頃売れていたピーター・ガブリエルのSledgehammerのこともあり、私の中でジェネシスは「売れ筋ポップバンド」として固まってしまったのだ。

それから20年(!!)、先日書いたGENESIS REVISITEDをきっかけに70年代ジェネシスを聴いてみようかという気になり、かき集めて聴いたのだが…全然ポップバンドじゃないんですけど、これ。
ピーター・ガブリエルのエキセントリックかつささやくような歌い方も結構クセになるが、音楽的には彼が居ない方が私の好みである。あの演劇の場面展開BGMみたいなのが、どうも馴染めないのだ。したがってSupper's ReadyやTHE LAMBS LIE DOWN ON BROADWAYなんて何がいいのかさっぱりわからない。ピーガブの良さがわからないお子ちゃまで、すみませんねえ。

で、私が気に入ったのは、ピーガブが脱退してから「3人になりましたが、何か?」状態までの3枚のアルバムである。スティーヴ・ハケットって影が薄いなあ、と思っていたのだが、彼がいるのといないのとでは音の奥行き・広がりが違うような気がする。ギタリストってリフを弾きたがるものだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。いや、実は弾きたかったから脱退したのかもしれないが。
そして気に入った時代の、さらに私のお気に入りがこの"WIND & WUTHERING"。
wind-&-wuthering-1.jpg

これと前作のTRICK OF THE TAILがトニー・バンクスの絶頂期だったのではないかと思うくらい、曲はバンクス節(ロマンティックなのよ)バリバリだし、キーボードも縦横無尽に炸裂。といっても、キース・エマーソンやエディ・ジョブソンの飛び道具的なキーボード(爆)とは違い、あくまでも厚く音を重ねて"Texture of Sound"を表現するのが彼のやり方である。機材に関しては新しい物好きで古いものを顧みないという噂の彼だが、この頃ではアコースティックピアノをふんだんに使っており(WINDでは"Steinway"とクレジットされている)、その使い方がクラシック一辺倒はなく非常に心地よい。シンセの音や使い方も、この頃がちょうど私の好みだな~。

私が初めてこのアルバムを聴いた時の感想は「なんか印象に残らないなあ」というものだったが、何回も聴いていくうちにすっぽんとハマってしまった。プチスルメですね。アルバム全体に統一感があり(特に昔のB面はトータルで聴かないとダメ)、シングルカットできるような曲はYour Own Special Wayくらいじゃないかという地味さ。最近リマスターされたアルバムのおまけDVDで、トニー・バンクスが「聴きやすいとはいえないし、Your Own Special Way以外は何度も何度も聴き込む事を要求するような曲ばかりさ」と言っているが、本当にその通りでございます、とDVDの前でうなずいてしまった。
中でも一押しはOne for the Vineだろう。Firth of FifthやThe Cinema Showの流れを汲むバンクス節全開の曲だが、ピーガブがいない分好き放題にやっているという感じ。最初のテーマはアコースティックピアノのみであくまでもロマンティック、そして急展開する中盤部分(ここのリフがお涙頂戴的にクサくて大好きだ)、最初のテーマに戻った後はラストもアコースティックピアノで静かに締めくくる…とドラマティックかつバンクス的甘さいっぱいである。ピーガブがいたら、甘さよりも妖しさばっかりになったに違いない(爆)
お次のお薦めはBlood on the Rooftops。ハケット&コリンズという「後から参加コンビ」が作った曲だが、イントロのハケットのアコギが素敵。彼のアコギならHorizonよりは絶対にこっちがよろすい(Horizonはバッハの無伴奏チェロソナタの…以下略)。曲も哀愁漂うブリティッシュ・ロックという感じでいいなあと思っていたら、メンバーのインタヴューでもみなこの曲を絶賛していた。なんでこの曲は有名じゃないんでしょうね?
最後の3曲、Unquiet Slumbers for the Sleepers...からAfterglowがまたよろし。インスト2曲はアルバムジャケットのような冬のイメージ(このアルバム自体が冬の雰囲気をもっているのだが)、そして最後に激甘(爆)のAfterglow。Afterglowは最初ライヴ盤で聴いた時「なんだ、この激甘ソングは~!」と思ったが、アルバムで聴くとまさしく「吹雪の中を延々と歩いて、手も足も凍りそうで半泣きになったときに、やっと我が家にたどり着き、コートを脱いでほっと一息つくときの気分」である。太平洋側・関東以南の人には絶対にわからない、この心境だな。

アルバムの雰囲気そのものを漂わせるジャケットは、なんとヒプノシスのデザイン。こんな絵も描けちゃうんですか?とびっくりである。評価なんておこがましいことは申しません、無人島に行くときには絶対に持参の1枚。ただしメンバーがインタヴューで"feminine"を連発しているように、プログレにしては甘めのシンフォニック・ロックなのでご注意を。

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