劒岳 点の記

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もう半月近く前のことだが、「劒岳 点の記」を見てきた。公開時は試験前だったこともあり、映画館で見るのをあきらめていたが、8月半ばになってもまだ上映しているではないか。やはりこれは大きなスクリーンで見るべきだろう。

この作品は、新田次郎の同名の小説が原作である。原作のほうは昔読んだのだが...もう記憶から薄れていたし、手もとに本も見当たらなかったので、新しく文庫本を購入して白山室堂で読む。やれ撮影が大変だったとかCGを使っていないとかがこの作品の売りのようなことをあちこちで目にしたが、事前に映画評には全く目を通さずに見に行くことにした。

そういえば、事前に映画のチラシは手に入れたぞ。そのチラシに写る、堂々とした剱岳に見入っていたら...なんと別山尾根からの登山道が白く写っているではないか。これってアリなのか? これは柴崎隊が見ている明治時代の山じゃないのかい??とそのときは思ったが、そのいやーな気持ちは映画が進むにつれ増大していった。

というわけで、相当きついことを書きますので、映画を見て感動した人とか、見逃したので後日DVDでという人はこの後読まないほうがよろしいっす。

まあ時代考証がなっとらん、とか明治時代にこのセリフは無いだろう、とか突っ込みどころは満載だけど、ひたすら見て見ぬふりをする。秋の天狗平や雷鳥沢を二人が歩いていくシーンは、ため息が出るほど美しい。仙人池からの八ツ峰もお約束の構図だが、ほれぼれする景色である。やはりいつか撮りに行かなければ。
あちこちに散乱する突っ込みどころの間に、印象的なシーン(吹雪の雪原など)が入るので、ついつい騙されて見ちゃうんだな、これが。ところでCGは使っていないらしいけど、合成はあちこちで使っていますね。ははは。

この映画の原作はあまりにも淡々としている、と木村監督も思ったのだろう。原作には無い、人間関係に関するエピソードをちょこちょこと入れているが、これが薄っぺらいのなんのって。入れないほうがマシだっつーの。そのくせ、大変重要なエピソードは削っているんだよな。
なぜ柴崎隊は山岳会を出し抜き、梅雨のたった1日の合間に剱岳に登れたのか?というエピソードを抜いたために、小島烏水にお互いの立場を全く理解していなかったかのようなセリフを言わせ、翌日柴崎隊の出発を温かく見守る...という展開ができあがってしまったわけだ。はあ...。

この後、日本山岳会のメンバーが登頂したシーンなんざ、座席で気を失いそうになってしまった。画面の左端から出てくる、小島烏水役の仲村トオル。おいおい、裾がヒラヒラのコートを着て、剱岳の登頂はありえんだろ。しかも左端といえば、別山尾根。柴崎隊が登頂を断念した別山ルートから、トレンチコートを着て登頂成功したんですね...って、これはファンタジーの世界だよな。ハリー・ポッターじゃないって(爆) おまけに別山と剱岳の山頂での手旗交信って...ありえん。やっぱりファンタジーだ。

もう一つのエピソードに関することだが、剱岳には2004年まで三等三角点が無かった。私はずっと「剱岳の標高は2,998m」と記憶していたのに、いつのまにか2,999mに変わっていた(驚いた!)のは、2004年に三等三角点を置いて再測量したためである。柴崎の任務は「剱岳に三等三角点を置くこと」だったのだが、映画の中では何事も無かったかのように四等三角点を置いて測量し、下山している。原作では、柴崎は三等三角点を置けなかったことに心残りを感じているのだが、そういう描写は全く無いのだな。これ、結構重要だと思うけど。
「人がどう評価しようとも、何のためにそれをしたかが大事です。悔いなくやり遂げることが大事だと思います」という古田の言葉にウルッときた人は多いんじゃないかと思うけど、これって、現代のサラリーマン向けの言葉だよなあ。地図はその部分だけ真っ白、今とは比較にならないような装備で「それが自分の仕事だから」山に向かうっていうことは、こんなぬるくて軽い心境ではないと思いますぜ。

そう、この映画は最初から最後まで「現代の視点」なのだ。じゃないと宮崎あおい扮する柴崎の妻に「あなた、ご飯はお肉にする?それともお魚?」なんてセリフを言わせるか?(私はここで絶句した) セリフや登場人物の考え方などに現代が思いっきり見えるので、白けてしまうことこの上なし。だいたい「撮影が大変だった」ばかりを前面に出すなんて、プロじゃないですな。そりゃあ長次郎雪渓を登らせて撮影するのは大変だったろうとは思うけど、映画は完成品がすべて。「人がどう評価しようとも、何のためにそれをしたかが大事です」ってのは、監督が自分のために言った言葉じゃね?とも思うのだが、アマチュアの言葉だよ、まったく...。プロのオーケストラとアマチュアオーケストラを考えてみればわかると思う。アマオケって、完全にこの精神だよね。

それを救っているのが、長次郎役の香川照之と剱岳一帯の風景。映画の日やレディスデーで1,000円なら香川照之の演技+剱岳の映像代金としていいかなと思うのだが、あいにく私が行ったのは普通の日。差額の700円、返せー(w でもって、ちゃんとした脚本家と監督を入れて、誰かリメイクしてください。カメラマンは木村さんでいいですけど(爆)

文句ばかりでも何なので、ほんまもんの「剱岳 点の記」はこちら。「柴崎芳太郎」の名前、残っています(選定者だけど)。

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このページは、しづが2009年9月 3日 22:42に書いたブログ記事です。

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