シフ先生のベートーヴェン・ピアノソナタ講座

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アンドラーシュ・シフのピアノリサイタルをTVで見て、そのピアノに惚れてしまった私は、この1ヶ月半CDを買い集めた。
で、聴きまくった。またしても大人買いだよ。
シフというピアニストは1つの作曲家について深く掘り下げ、レコーディングやリサイタルをするというやり方をとっているので、CDの数の割に手がけた作曲家は少ない。「リストはやらない」と断言している(はずだ)し、ピアニストが好きな(というか、すぐにやりたがる)ショパンはほとんど弾いていないし、近代フランスものも皆無だ。そのかわりと言ってはなんだが、あまり作品として弾く人のいないインベンションとシンフォニアを始めとして、モーツァルトやシューベルト、ベートーヴェンのソナタを全曲録音している。
そんな中で、私がこの1ヶ月半に買ったのは、シューベルトの後期ソナタ&即興曲、ベートーヴェンのピアノソナタ(27番以降)、1980年~90年代に録音したバッハの鍵盤もの(12枚組)、新録のパルティータといったところだ。
シューベルトは「まあこんなもんかな(音は美しいけど)」、ベートーヴェンは「これよ、これ!」、バッハにいたっては「たまげた」。バッハはグールドを聴いたときと同じくらいびっくりした。グールドの対局にあるような演奏なのだけど、これは学習者は聴いちゃいかんというところが共通しているw ちなみに私はグールドに関して評価なしです。独創性は認めるけど、何がいいのかさっぱり分からん。シフのバッハが対局にあるというのは、一つ一つの音をつなげ、歌うような演奏をしているからだ(もちろんどことどこをつなげるかは、おそろしく練られている)。そういえばバッハの録音モノでハミングを入れている奏者が何人か居るが、あれは本当にやめていただきたい。生理的に受け付けん。ある声部のみ歌って他の声部を鍵盤で弾く、という練習法はかなり効果があるんだけどね。

で、ベートーヴェン。この人の弾くベートーヴェンはオーソドックスすぎると思えるかもしれないか、最初の1音からものすごく考えられている。バッハと同じく、練りに練られた音という感じ。どの音を、どの声部を出すか、どの程度の強さで弾くか、水も漏らさぬ計画のもと作られ、解釈(意図)が多少なりともわかる音楽だ。だからこの人の弾く音はこんなに美しく、和音がすんなり耳に入るのだろう。ちなみに私が和音の響かせ方がひどいなあ、と思う筆頭はポリーニ。録音のせいなのか?と思っていたが、リサイタルでもちょっとねーだったので(これも場所のせい?)、期待通りのがっかり(爆)
ところでタイトルの「ベートーヴェンピアノソナタ講座」とは、これのことだ。Lecture Concertの名のとおり、シフがベートーヴェンのピアノソナタにつき、ピアノを前にして1曲ずつ解説をしている。私はまだ30番、31番しか聴いていないが、彼の演奏を念頭において聞くと、非常に面白い。ここでは「ミサ・ソレムニス」との関連や、この2曲中のモチーフに見られる影響なども話している。で、たまにシフが歌うのだが、彼のバリトンがなかなか素敵なのよ。また31番の中で「あれ?ここはこの速さで入るの?」というところがあったのだが、そこについても言及していた。「ここは他のピアニストと全く違います」と自分の解釈を語っており、やはり彼の演奏を耳にした上で聞くのがおすすめ。ネイティブの英語話者ではないので、ポツポツという感じでのんびり話していて、わかりやすいよん。やはりドイツ語のほうが得意なんですかね?

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今回購入したのはベートーヴェン・ピアノソナタ集のVol.7とVol.8。Vol.8は100番台の3曲で、先日のリサイタルと同じ。これのみスタジオ録音とのことだが、かえってリサイタルの完成度の高さに再度驚かされた。
Vol.7は27,28,29番という、中期から後期に分類されるピアノソナタを収録してあり、こちらはライヴである。いやー、いいよこれ。27番なんてノーマークの曲が、もうたまらなく素敵(特に第2楽章)。カミングアウトすると、ハンマークラヴィーアを聴きながら眠らなかったのは、初めてです(本当)。あの曲、飽きちゃうんだよなw でもシフの演奏は、何度も何度も繰り返し聴いてしまう。しかしハンマークラヴィーアの第4楽章は全くわからん。どれが主題なのかさえ、つかめない。楽譜を見たらわかるかなと思ったが、全然わからん...。

こんな訳でシフのピアノにハマっているのだが、今後はシューマンも発売されるということでワクテカ状態。特にECMの録音はDECCAに比べると非常にクリアーなので、聴いていても気持ちが良い。バッハは古楽器をかなり意識した弾き方をしている(と思う)ので、音質がクリアーだとその良さがさらに際立つんだよね。かなりたまげたインベンションも、ECM録音で聴くと印象が違うのではないだろうか。フランス組曲あたりも再録してくれないかな。

夜更けの残業も、外に出るのが億劫になる雨や雪の日も、彼のバッハやベートーヴェンを聴いているとそれだけで幸せな気分になれる。人をそんな気持ちにさせることができる音楽家ってすごいなあ、音楽ってすごいなあ、といまさらのように思う今日この頃。

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このページは、しづが2011年4月25日 23:28に書いたブログ記事です。

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