オマエに死ぬまでに一度だけオーケストラを指揮させてやる、と言われると曲は何にするか?うーん、基本はベートーヴェンかな、いやマーラーか、でもブラームスも渋いぞ、いや春祭なんぞ完璧に振ればかっこよすぎる、とか妄想すれば、それだけでご飯が何杯もいける訳だけれども、ここ数年はシューマンの交響曲第4番ということになっている。振らせてください。
シューマンと言えばどちらかというとピアノ曲の方が有名で、仮に交響曲をとっても、第1番「春」や第3番「ライン」が有名であり名曲であることは否定しないのだけれど、私にとっては第4番である。思い返してみると、バーンスタイン/ウィーンフィルのライブのレコードの印象があまりに強かったせいに違いない。特に第4楽章のコーダの壊れ方がすごすぎて、そのまま魂を隣町まで持っていかれて呆然としたのであった。でもこの瞬間は神がおりてきているんですね、音楽の神。もちろんこれに共振できる人とできない人が存在するのは当たり前で、共振する人は少数派かもしれないのですけれど。
今考えると、これだけ線のそろっていない演奏を正規盤でだしたDGもえらいもんだと思う。しかし、このバーンスタイン/ウィーフィル盤は他の交響曲も含めて名盤として何度も再販されている。CDでも買ったけど、SHM-CDとやらでも買ったのだ。そのうちSACDでまた出て買わされるのはなんだか癪に障る。そういう意味では降りてきたのは貧乏神かもしれない。
さて、シューマンの交響曲第4番はもともと第1番「春」の後に作曲されたので実質的には2番なんだけど、初演時の評価がイマヒトツということで、10年後に相当に手が入れられて、現在の第4番のような形となった。もっとも、全体の主題の統一感や全楽章をつなげて演奏するという幻想曲的な性質は元々持っていたものである。
ロマン派というと古典派の純粋音楽的造型よりも旋律性や物語性が強調されるのだけれど、シューマンの作品では音楽的造型の抽象性がとても高いように感じられる。そのせいでロマン派ではありながら、一般的に親しみ難い部分もでてくるのではなかろうか。なんか矛盾した言い方だけれど、抽象度の高さをなんとか親しみやすくするために表題をつけたり、題材を取っているというか。。。もっとも、「クライスレリアーナ」のような題材が作品のインスピレーションの元になっているのは当然のことなんだけど、できてしまったのは一般的な題材表現を遙かに越えて音楽的抽象の世界に踏み込んでいるあたりが、シューマンの難しさと、しかし好きな人には「たまらーん」ということなのだろうなあ、などと考えてみたり。自身でもタイトルをどうつけるか困って、結局味も素っ気もない「序曲、スケルッツォとフィナーレ」にしてみたり。なんか格好良い題名がついていればヒット曲になったかもしれないのに。。。
話はこの曲からはずれてしまったけれど、そのシューマンの特徴を長所も短所も全部ぐるぐる巻きにして太巻きにしてマヨネーズもつけてみました、っていうのが私の第4番を偏愛する所以なのです。で、第4楽章の、パっときてカっときてサっときてソっときてヤっときて、、、というところが泣ける。このフガート主題の部分にくると、これらの言葉がうずうずと頭の中に湧き出して困ってしまう。もっともその時々で、クっときてホっときて、、、だったりいろいろなんだけど。
その後にコーダですよコーダ。これがコーダ。で、バーンスタインの演奏までいかなくても、やはりこのコーダは前のめりにいってほしい。死ぬなら前のめりで死にたいということだ。いや、仮に遅めのテンポでも前のめりのスピード感を感じさせる演奏であってほしい。この、感じさせるというのが重要なのです。
上に書いたとおり、この曲はシューマンによって相当手が入れられたので、オリジナル版からは大きく異なる(もちろん通常の意味では似ているし、基本的な思想は同じだけれど)。BISからはダウスゴーの指揮するスウェーデン室内管弦楽団によって、シューマンの交響曲や序曲、管弦楽曲が3枚のCDで出ていて、こちらにはオリジナル版と最終稿の2種類の演奏が入っている。このオリジナル版もおもしろい。逆にすっきりしているところと、最終稿に慣れた耳からするとつなぎ目などにごつごつした感じを受けるけれども、それはそれで愛するべき部分がたくさんあると思う。ではどちらを振るかといえば最終稿なんですけれど。
このCDはSACDの上に室内管弦楽団ということもあってか、シューマンのごてごてした濃すぎるオーケストレーションもすっきりきこえるという良さもある。オーケストレーションに関してはマーラー編曲版もあるんだけど、その話はまた他の機会に書いてみよう。
手元にあるCD
- バーンスタイン指揮 ウィーンフィル
- スクロヴァチェフスキ指揮 ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィル
- ダウスゴー指揮 スウェーデン室内管弦楽団
- ルイージ指揮 ウィーン交響楽団
- スィトナー指揮 ベルリン・シュターツカペレ
- チェリビダッケ指揮 ミュンヘンフィル
- シノーポリ指揮 ドレスデン国立管弦楽団
- ガードナー指揮 ロマンティック・リヴォリューション・オーケストラ
- ノリントン指揮 シュトゥットガルト放送交響楽団
- ジンマン指揮 チューリッヒ・トーンハレ
- アーノンクール指揮 ベルリンフィル
マーラー編
- シャイー指揮 ゲヴァントハウス
- チェッカート指揮 ベルゲンフィル
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