後期ピアノソナタの中でも30番から32番はそれぞれに世界を持っているし同時録音される事も多いので、どれを選んでもよいけれど、1曲となると個人的にはやはり32番かな。32番は2楽章しかないんだけれど、それで十分とも思えるし、1楽章が煉獄で現世であるなら2楽章は宇宙というか精神世界を旅するような心の音楽といった二元論的なイメージが浮かんでしまう。もっとも初期構想段階では3楽章にロンドかフーガを予定したようで、いったいどんなフーガになったんだろうと気にはなります。
グルダと悩んだのですが、ポリーニにはうおーっときたので、入手も簡単だしこちらを先にあげておきます。ポリーニの演奏は時に機械的とかいわれたりして、確かにうるさいときも多いんだけど、この後期ソナタ集はすばらしいと思う。この演奏を聴いていると下手に奏者の思い入れをいれずに、楽譜を音にすることに専念する事がベートーヴェンの後期ピアノソナタには良いような気がしてきた。とにかく1楽章の現実の諦念でのたうちながら、2楽章で心の中の宇宙世界一周がすばらしすぎる。そして2楽章の最後に、ああ戻ってきたんだと主題に帰還するところで泣ける。おかえりなさい。。。と綾波が静かにつぶやいてくれるのだ?
グルダの演奏はこの曲単独で出たのだけど、録音がすばらしく良い。CDで聴いてもピアノの響きが他とは違う、と思えるほど良い。演奏も良い意味で力むことなく美の世界を堪能できるので、この曲に対峙したいときはポリーニ、浸りたいときはグルダかしらん。。一緒に入っているグルダのインプロビゼーションがやっぱりつらいかも。もっとも後にはシューマンと組み合わせて再販されたみたいだけど。仲道郁代さんのは安心して聴く事ができるけど、他のとくらべるとさすがに突き抜けたところはないなあ。
グールドのものは音楽に身を浸すというより、グールドのおしゃべりを聞いているようでおもしろいけど、音楽の世界そのものかというとやはりグールドの世界なので好き嫌いが分かれそう。グールドを聴きたい!というときにはよいけど心が疲れたときに聴くのはつらい気がする。でも30番の最初も31番のフーガ、32番の2楽章もすてきなんだけど。。。32番の1楽章は劇速の7分15秒!疲れる。。。あ、当然のことながらグールドの歌つきです。
手元のCD
- フリードリヒ・グルダ
- マウリッツオ・ポリーニ
- 仲道郁代
- グレン・グールド
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