探偵小説ではあるのですが、「数理論理学のメルカトル風変奏曲」という感じですね。どれがどれというとわかっちゃうのでまとめて書くと、非決定的な問題、矛盾した体系について、推論の限界性、開かれた体系での推論、など。これらをメルカトルと美袋のやり取りで楽しむというのが良いと思います。もちろん「決定的な犯人の存在」として証言や推論を疑うことや一部否定することは可能ですが、それをやってしまうと体系的に壊れてしまう(どれを疑うかは順位がつけられない)、というぎりぎりのところで作られているのを愛でましょう。
というわけで、一般の推理小説読者にはむかないかも。「結局誰が犯人なの?」と聞く人は読まないほうが吉。特に「答えのない絵本」など、二流の作家なら一人を特定できるようにして推理過程にどや顔しそうですが、そこをあえて通り越しているところに味があると思ってくんなまし。いろいろなブログでは犯人を確定させるための推測などやってますが、まあメルカトルは「不可謬」だとしての論理ゲームなんだから、 意味がないですね。
というわけでおもしろかった。彼の作品には「本当の価値は自分にしかわからないのでは?」と思わせるところがあって、そこが離れられないんだよなあ。。。
コメントする