「夜毎に石の橋の下で」は、16~17世紀にルドルフ二世の魔術都市プラハを舞台に、皇帝とユダヤ人の豪商とその美しい妻らが繰り広げる数奇な物語で、歴史の現実と作者の夢想が石の橋の下で交錯する幻想歴史小説の傑作であります。連作短編集の形式を持っていて、一つ一つの話が民話のようにおもしろく、ちらばっていながら、全体としてひとつの織物を作り上げます。実在だった人物と街の歴史を金の縦糸、その隠された逸話を銀の横糸として織り上げると、幻想のプラハが目の前に現れる。。。
1589年秋、プラハのユダヤ人街を恐るべき疫病が襲った。墓場に現れた子供の霊は、この病は姦通の罪への神の怒りだと告げる。これを聞いた高徳のラビは女たちを集め、罪を犯した者は懺悔せよと迫ったが、名乗り出る者はなかった。。。という「ユダヤ人街のペスト禍」という最初の短編は、ほぼ中央の「夜毎に石の橋の下で」、最後の「天使アサレル」とともに皇帝とユダヤ豪商の妻の愛の姿が小説の中心軸となっていて、その幹から嫉妬や欲望や運命をからませる枝が短編となって葉を繁らせていきます。かといって、それぞれの短編は枝が勝手な方向に伸びているようにみえるし、しかも話の進み方が思いもかけないのでとてもおもしろい。しかし、個々の話を楽しんでいくうちに、眼前には幻想のプラハが現れるのです。
ペルッツに関しては「最後の審判の巨匠」と「レオナルドのユダ」を読んだけれども、おもしろなあ。ただ、「最後の審判の巨匠」とかはうまいけどなんつうか技巧臭がするんだけど、「夜毎に石の橋の下で」でもよく読むといろんな小技はあるが、それもこれも表立って目立たない落ち着いた雰囲気に貢献していると思う。うーん、堪能した。
もともとペルッツは「マイスルの富」という仮題で書かれたらしいが、いろいろあって「夜毎に石の橋の下で」という題で出版されたらしい。伝説的にはマイスルの富の方が有名なのかもしれないけど、やはり「夜毎に石の橋の下で」がいいなあ。薔薇と白いローズマリーがあざやかすぎる。
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