パウリーナの思い出に

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アドルフォ・ビオイ=カサーレスといえば、「モレルの発明」で有名というよりも、ボルヘスの共作者としてのほうが有名かもしれない。「パウリーナの思い出に」はそんな彼の短編集である。

短編としてはアンソロジーに入っていたものとして、題名の「パウリーナの思い出に」と「大空の陰謀」は既に読んでいたので、「二人の側から」「愛のからくり」「墓穴掘り」「影の下」「偶像」「大熾天使」「真実の顔」「雪の偽証」は初めて読んだ。といっても前に書いたとおり「パウリーナの思い出に」と「大空の陰謀」もほとんど覚えていないとはいかがなものであろうか。

もちろんおもしろかったのだけれども、コルタサルと比べるとどうかというと、やはり個人的にはコルタサルのほうがおもしろい。着想はうなるものの、考えオチみたいな話が多いので、感情移入しきらないというか、詩的な幻想にいたらない気がする。コルタサルが詩的なあじわいでボルヘスが新しい数学の本を読んでいる気分だとすると、ビオイ=カサーレスはその間ということになるだろう。共作もあるのはそのためかやはりボルヘスに近いような気がする。

私の好みはコルタサルのほうなのだが、ボルヘスも実は論理的な抽象性を尽くすと詩になってしまうという不思議な感覚があって、おもしろい。ただビオイ=カサーレスはどちら側にも行き着けなかった感が強いのだ。もうひとつは作者自身が得意げに説明してしまう終わり方は全く私の好みではない。ぜーんぜんおもしろくない。幻想小説から作者自身が霧を吹き払ってしまえば、出来事は幻想的でも読後感に幻想性は残らないのではなかろうか。また、その部分をいかに話の中で暗示(明示ではない)するかがおみそだと思っている私なのだ。

もっともビオイ=カサーレスが幻想小説として書いていたかどうかは知らない。SFネタの推理小説のつもりなのかもしれん。「メモリアス」を読めばどう考えていたのか書いてあるのかな。うーん。

で、個別に感想を書こうかと思うが、ビオイ=カサーレスの作風のものをまじめに感想をかくとなると、ネタバレになってしまう。したがって、ここから先は読んだ人のみが読んでください。

【ネタバレあります】

・パウリーナの思い出に

これは以前にも読んだけど、好きなほうである。最後の説明のしかたは少々鼻につくものの、なんといっても最後の精神的な落とし方がが良い。これぐらいがっくりいってもらわないといかんね。主役は実は独房にすわっている彼のような気がする。

・二人の側から

この軽いオチで好きだ。これくらいのがもう少し入っていると良かったような気もする。

・愛のからくり

アイデアはおもしろいものの、やはり最後の説明のしかたがどうもなんだかなあと鼻につくのである。なんとか作者自身の説明以外のうまい展開はなかったかねえ。このあたりが個人的にコルタサルのほうに惹かれる理由でもある。読者に全部見せなくても良いじゃない。また、サーカスの団員というのも最後の劇的な死に方のためだけのプロットのような気がして、いわゆる詰将棋の逆算式の作り方が鼻につく。


・墓穴掘り

これは良かったと思うが、あんまり幻想風味はない。ただ、出だしと終わりの暗示のしかたが良いかな。女は強い。

・大空の陰謀

これもアイデアはおもしろいものの、元の世界に戻ってきたと思わせておいて、ということなのだが、作者説明でちょっとひくわねえ。これも作者説明のない展開のバージョンを希望だ。

・影の下

これはおもしろかった。猫もね。どこまで真実を語っているのかわからんくらいがよいのだ。

・偶像

これの終わり方が一番好きだけど、途中は暗示的なガジェットを放り込みすぎ。女は怖い。

・大熾天使

違和感がよかった。なんだか非日常と日常の裂け目が目の前にあるようでおもしろい。そう、最後の行動のような感じで終わるべきだよね。

・真実の顔

考えオチなのはよいけど、この語り手のもってまわった書き方はどうだろうか。誰にも話すなという話とこの文章を書いているということ自体矛盾しているし、そういう意味では心理的にきちんとできていない気がするので語り手には感情移入できない。計算してそうなっているのだといわれるかもしれないけど。

・雪の偽証

これも最後に作者が真相解説パターンで、さすがに大体途中から想像できたけど、真相解説は綾辻行人かとおもた。だめすぎる。

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このページは、なおきが2013年7月21日 02:46に書いたブログ記事です。

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