●ヴァインランド
ピンチョンといえば「V.」「競売ナンバー49の叫び」「スローラーナー」はなんとか読んだが、代表作「重力の虹」は挫折中。でも「ヴァインランド」はポップカルチャーがねただし、変な日本人はでてくるし、読みやすいと思います。ストーリーはあってもあんまり意味はないし。でも、最初なぜタイトルが「ヴァインランド」なのかよくわからなかったが、全体の4/5を過ぎたあたりでやっと「ヴァインランド」自体が主役になる意味がわかりました。それとともに、コロンブス発見以前のヴァイキングが呼んだヴァインランドという名前が選ばれている理由もわかった気がする。
以前の作品と異なり、神話的な、というか甘い収束なのだが、逆にそれはすでにどこにも存在し得ない「ヴァインランド」の上であればこそ、思い切り登場人物にとって理想的に終わらせるということなのだろうか。現在のイラク戦争や世界の状況を思うにつれ、その終わり方が夢があるからこそ、逆に絶対にその様にはなれない人類のバカさと愚かさが浮き彫りになっておもしろいです。TVに関するオタク度爆裂の本なのだが、この終わり方自体が、物語り全体をTVドラマの中のひとつの虚構のように閉じ込める役割を持っているように思えてなりません。ピンチョン自身は少なくともこの終結の夢を持っているわけではないでしょう。
それにしてもこれは翻訳でしか私には読みようがない。一応原書も持ってはいるのだが、戦う気にはなれません。「競売ナンバー」で40ページほどで挫折しました。他の英語の本だと1ページに何度か英和辞典を調べればなんとかなりますが、ピンチョンの場合は(私が単語を知らなさすぎるにしても)、1,2行に一個は見たこともない単語がでてきていて、しかも小さな辞書では載っていない。最低限リーダース英和辞典が必須であり、日本のリーダース英和辞典の売り上げの数割はピンチョンのためではなかろうかと疑っていたりします。
しかも、たとえ文章的には翻訳できても背景知識がわからないので、持続不可能です。その点今回の「ヴァインランド」は詳細な注釈があり感謝感謝です。なんか否定的な意見もどこかでみかけましたが、これがないととても読んだことにはならないんじゃないかなあ。。。逆に文章などは翻訳時にぶった切ったり、ヘクタの言葉を大阪弁に訳していたりするんですが、全体のトーンからするととても適切なんじゃないでしょうか。バランス感覚が難しいですけどね。
語り口自体は、いつものごとくだめだめ男がでてきたり謎の女の過去をさぐったりなんですが、昔に比べるとずいぶんわかりやすくなっている気がします。いやそれも21世紀の今読んでいるからで、もし80年代のレーガンからブッシュの頃に、もしこれを読んだとしても理解できなかったんじゃないかという気もする。それを考えると、発表当時はこの作品は賛否両論だったわけですが、すげーなと思わざるを得ない。また、物語は80年代に50~60年代を懐古している部分もあるのだが、今私たちが80年代を懐古しているのと二重に重なるのであります。昨日、ニュースでレーガン大統領が死んだのを知ったが、なんというかシンクロニシティーを感じてしまうのでした。