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September 19, 2004

●螢

book-maya-02.jpg

麻耶雄嵩の「」を読んだ。なんだかこちらのほうが正当な館モノになっているし、謎のバランス、最後の驚かし具合、一番最後の悪意といい久々に満喫しました。うーん「名探偵木更津悠也」もよかったし、今年はどうなってしまったんだ。これで十年ほど沈んじゃうのはやーよ。

「暗黒館」ではけっこうぼろくそだったのですが、わたしは麻耶雄嵩には甘い。甘いんだけど、それを割り引いてもすごくうまくまとまっているんじゃないでしょうか?いつもは E 難度を狙うけど、今回は D 難度を 2 連発で着地の形にこだわってみました、というところでしょうか?いつもの積み上げた世界観の崩壊はないにしても、これこそ悪意という世界はなかなかよかったす。またトリックがわかった後で読み直すとそれぞれの愛の形がすべて歪なものに変化してしまうのが美しい。「館」もの引き取ってください。

あ、でも「こめかみ使用禁止」には追加。この隠し通路は許す。

以下ネタばれ含みます。

第1のトリックは叙述トリックですが、途中から少し違和感があったり、地の文が変わっていたり、存在感がなかったりで、やってるなとは思いました。でもこれほど見事にそれぞれの愛の形までひっくり返るとは思っていませんでした。後で読み返すとあちらこちら結構露骨にかかれています。

第2のトリックは、方法自体はよくありますが、話者と読者だけが知っていて、しかも読者はそのことを知らないというなんとも高度な。でもうまく決まっていたようです。

最後のエピローグの意地の悪さがすばらしいのですが、まあ誰が生き残ったかによって物語はそれぞれに膨らむのでしょう。一番適切なのは話者かなとも思いますが。

トリックの話ばかり書きましたが、音楽の話や館自体の作りの話、狂っていく理由など、無茶ではありますがけっこうまとまっていてうれしかったです。しかも加賀がプロコフィエフはともかくベルクのヴァイオリン協奏曲が得意とかいうのははまりすぎて笑えます。この曲自体、親交のあったアルマの娘マノンが幼くして無くなった事へのレクイエムとして作曲されており、加賀の心境にぴったり。ロマンチックではありますが十二音音楽ですので、これを読んで聴いてみようかと思ったミステリファンは注意(覚悟?)してください。急に聴きたくなってきたなあ(昔持っていた CD はチョン・キョンファのVnであった)。

後で読み返すと、肝試しの後に佐世保が一仕事終えたようなさっぱりとして現れるあたり、もうとってもいやん、な感じです。私なんか部屋が音名であるところになんかあるのかと必死に考えていて、いやん、でした。でもお薦め。

コメント

麻耶雄嵩で、一番おすすめの作品はなんでしょうか。
「冬のソナタ」みたいなタイトルが評判良い様ですけど。

hiroppyさんお久しぶりです。

わたしの個人的な趣味では、
本格の本道に近くてできのよいもの・・・「螢」「名探偵木更津悠也」
麻耶的世界が堪能できるもの・・・「夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)」「鴉」「メルカトルと美袋のための殺人(短編集)」「翼ある闇」
摩耶的世界だけどついていけるかどうか・・・「木製の王子」「あ」
ちょっと一段落ちるか?・・・「あいにくの雨で」「まほろ市の殺人 秋」
という感じなんですが、登場人物の関係から以下の順序がよいと思います。

最初は「螢」か「翼ある闇」。「螢」は単独の登場人物で、しかもうまくできているので普通に読んで大丈夫でしょう。麻耶的世界では作品は上の順で好きですが、登場人物の関係でやはり「翼ある闇」が先でしょう。これで拒否反応がでた場合は無理かも。
「翼ある闇」
   ->「夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)」->「あ」->「木製の王子」
   ->「鴉」
   ->「メルカトルと美袋のための殺人(短編集)」
   ->「名探偵木更津悠也」
というかんじですね。縦は「翼ある闇」を読んでいれば、どれにいっても大丈夫だろうということです。
「夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)」は一般にわからないという評判で、それで問題ないです。。。

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