●ロウソクのために一シリングを
ジョセフィン・テイはマイブーム。前から書いているけど、推理小説としてではなくグラント警部の心理小説としておもしろいのと、テイ女史(と書きたくなる)の適度な皮肉と気の利いたせりふ、イギリス的なというかスコットランドよりなのかちょっとひねくれた感じの醒めた見方が楽しいのだ。「ロウソクのために一シリングを」はヒッチコックの「第3逃亡者」の原作らしいけど、映画は相当原作と違うらしい。でも読んでみてそれが正解なんだろうなあと思う。
しかしテイ女史のものは本当に一筋縄ではいかない。事件とその推理と結果だけから見るとなんじゃこりゃ、どちらかというと松本清張的な刑事小説に近いんだけど、醒めた皮肉な感じが良い。そう事件のプロットやその展開も後から思うと皮肉が利いているんだよね。そういう意味ではすでにアンチ推理小説というかメタ推理小説的なんだす。登場人物がおもしろいのもいいなあ。警察署長の娘のエリカさん萌えです。きっと半世紀後にはミス・マープルのようになれるでしょう。というわけで星4つ、だけど、普通の推理小説は期待しないでください。
「英国南部の海岸に女優の溺死体が打ち上げられた。事故か、他殺か? 彼女の奇妙な遺言に捜査陣は翻弄されるが…。」と出だしは普通に推理小説として盛り上げるんだけど、グラント警部がいろいろ思い込み始めてからがすごい。全然名探偵とは思えない。。。というか迷探偵に近いな。しかも毎回ほとんど神経症におちいりそうになっているし。でもその心理を追うのが途中からの展開であって、トリックありきの推理ものではまったくありません。
でもそんなことはどうでもよくて、途中からは事件はグラント警部のくらくらする心理をおいかけるためのものだし、他の魅力的な登場人物を輝かせるためのものなのである。とくにエリカさんがおもしろかった。ティズダルは、、、ホテルのグラント警部のベッドに飛び込むシーンが最高です。また、事件後の最後のシーンでのエリカさんもGood! 私はこういうところを楽しんでいるので、タイトルが結局どうのとかは感じなかった。でもジュディ(だっけ)がティズダルくんに後でなんかあるのかと思っていたら、なんもなかったぞ。
さてテイ女史の翻訳作品は4冊目(時の娘、歌う砂、列の中の男)、もう折り返し地点で未読が減るのは勿体無い気もするんだけどマイブームなので続けて読むかもしれません。「時の娘」は読み直す気でいるし。これも何度もいっているけど、「時の娘」で判断して欲しくないなあ。