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September 29, 2007

●風の裏側

book-Pavic-01.jpg本はナマモノであり、買うべきときに買わないともう出会いないかもしれないのだ。買いそびれて消えた本にまた出会える確率は低い。 それでも時には買いそびれていた本に出合えることがあるのだ。日ごろの行いが良いのだ。

ミロラド・パヴィチの「ハザール事典」を持っている身としては「風の裏側」 も買わなきゃ、だったのだが、ふっと気を抜くとなくなっていた。ああ、買いそびれたのう、なかなか出会えないのう(ヘーローとレアンドロスのように)と思っていたが、最近古本ではあるがなぜか出会うことができた。時間の海を越えて。。。

で、これだけ書いても「ハザール事典」はまだ読んでいないのだが。むむむ。

パヴィチの小説は一筋縄ではいかない・・・らしい(ハザール事典は持っているがまだ積んであるので伝聞であります)。ハザール事典は歴史的にも謎のあるハザール人についての事典形式の小説で、三つの宗教の立場から記述されたり、本自体男性版と女性版があったり、凝りに凝っているらしい。その他にもタロットカードを併用して読む小説や100通りの結末が用意されていて読者が結末を選ぶ小説など、もうメタフィクション的というか前衛的というか・・・なんだけど、結局小説はやはりプロットや筋とのバランスもあるわけで単に思い付きでは12音音楽のようになっちまうが、さすがに現代文学の面白いものはそのあたりをはずしておりません。 また、パヴィチの小説はそのような形式の実験性を持ちながら、その構築する世界は物語的というか神話的というかそのギャップがおもしろい。

「風の裏側」はギリシア神話の「へーローとレアンドロスの物語」を元にした小説であるが、これも一筋縄でいかないもので、17世紀の石工のレアンドロスの物語と20世紀の女子大生のヘーローの物語として、本の両側から始まり、本の真ん中の青い栞のページで出会う。。。というか青い海でさえぎられているので出会えないわけです。そして2つの物語はつながっていて・・・といっても折原一みたいな解決ではなく、なんというか運命というか私たちの世界の裏側にある見えないルールというか、何かでつながっているようないないようなそんな隔靴掻痒感が残る小説で、自分で自由に解釈して楽しむものといえましょう。また、結構現代(17世紀であっても)のはずなのに神話のような語り口が冴えていて、なぜか運命とか宿命を感じてしまいます。

ただヘーローのパートは物語の最後の展開上語り口がああなったのは、私には少し弱いかなあと思う。でも不思議な感覚を楽しめたのでした(うーん、自分って残酷)。ハザール事典も読まなくては・・・しかし男性版しか持っていないなあ。

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