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February 11, 2004

●透明な対象

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ここでは、「透明な対象」の話者は誰か?もちと書いてみます。未読の方は読まないほうが良いかも。はずれているかもしれんし。

話者はだいたい読んでいるうちに想像がついてきて、またその語り口を楽しむのですが、当然基本はR氏ということになるでしょう。だいたいひねくれた途中の書き方からしてそうですし。また、最後の一行であきらか、というのは、その呼びかけの声が、前のほうでパーソンを呼びかけるのに実際に出てきていることからもいえると思います。

ただし、ここではR氏が生の声で書いているのではなく、R氏自身も小説の中に登場する「透明な対象」のひとつとしての立場で語っていることで、入り組んだ入れ子構造が発生しています。したがって、我々「透明な対象」が語っているわけですが、実際に語られている(騙られている?)パーソン自身も最後はその「透明な対象」のひとつとして同化すること、すなわち小説から退場することになります。また、ある書評で語り手は「透明=幽霊、死人」のように読めるものがありましたが、それはちょっとね。ここでは「人」と「物」に差別はなくて、透明なのは小説から退場している部分(人でも物でもとにかく)なのだ、としないと。。。

もちろんこれは私の誤読かもしれませんが、所詮ナボコフの英語やフランス語のしゃれはわかんないんで、読者サイドは思い切り誤読しないと面白くはないでしょう。

「透明な対象」に関しては冒頭から、すんごくわかりやすくヒント(というか回答)をだしてにやりと笑っているようなかんじですね。それと同時にこれ自体が小説の書き方の講義のようにもなっているわけです。すなわち、小説内の事物の記述に関する気の配り方の小説だったりもします。

もちろん英語やフランス語、その他足りない知識はたくさんあって、ナボコフの置いた100個の宝箱の1つか2つを開けただけの(それも間違っているかもしれない)気分ですが、十分「小説」を楽しみました。翻訳では言葉の問題は大きいのでマイナスも大きいのですが、日本語の記述でしゃれっぽいところがあったときに、翻訳で若島氏がどんな原文で頭を悩ましたろうと想像して笑えるのは、小さなプラスでしょうか。

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