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April 29, 2004

●隠し部屋を査察して

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カナダのエリック・マコーマックという作家の短編集である「隠し部屋を査察して」を読了。いや、これはすごいです。その歪んだ発想といい、ビジョンの具体性といい、着地点のない展開といい、これはとてもよいものですな。

私も素人ながら何か小説のようなものを書いてみたいと思ったりすると、小説を読むときにはついつい自分ならどういう展開で落ちをつけるだろうかと考えてしまうのですが、多くのものはたいしてひねることもせず、かといって深くもないものが多いのですが、マコーマックのものは展開が読めない、うえに短編でもまとめる気がない、何か散文詩と小説のキメラであるような、それでいてあざやかな幻想をみせつけてくれます。不条理というよりは無条理とでもいいましょうか。アイルランド系不条理の引継ぎ手のようです。

短編集には以下のような作品が入っています。

◆隠し部屋を査察して
◆断片
◆パタゴニアの悲しい物語
◆窓辺のエックハート
◆一本脚の男たち
◆海を渡ったノックス
◆エドワードとジョージナ
◆ジョー船長
◆刈り跡
◆祭り
◆老人に安住の地はない
◆庭園列車 第一部:イレネウス・フラッド
◆庭園列車 第二部:機械
◆趣味
◆トロツキーの一枚の写真
◆ルサウォートの瞑想
◆ともあれこの世の片隅で
◆町の長い一日
◆双子
◆フーガ

「刈り跡」などがよく紹介に引用されていますが、これはちょっとあたりまえすぎてそれほどでもないと思う。「パタゴニアの悲しい物語」や「祭り」のわけのわからなさ具合がより本質的だと思います。一番は「庭園列車」。これは・・・すごいね。イレネウス・フラッド最高です。「海を渡ったノックス」も含めて宗教というものに近親憎悪的なものを感じてしまいます。また「フーガ」はコルタサルへのオマージュで「続いている公園」を元にして、反行形から始まっての3重フーガになります。小説の冒頭にもコルタサルの文章が引かれているし。

で、どこかでみた作家だなーと考えていたら「双子」が「ダブル・ダブル」に入っていたんですね。「ダブル・ダブル」はアンソロジーなので、多くの作家の作品が入っているわけですが、これを読んだときはそれほどの作家とは思いませんでした。ただそう思う理由も明白で、「双子」は論理的な発想+考えた落ち(かつありそうな落ち)があるので、どうも頭で知的に考えるタイプなのかと思っていたのです。他の作品と読み比べてみると「双子」はちと頭脳的過ぎるきらいがあります。他の作品はもっと肉感的だったり感覚的だったりで、(裏では相当頭脳的だとしても抑えている)実はそちらのほうがマコーマックの良い部分なんですね。

カフカ+ボルヘスに筒井康隆を乾燥させてまぶした感じ。どちらかというと幻想小説にすれた人でないつらいかもしれません。「パラダイス・モーテル」読みたいなあ。

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