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October 03, 2004

●「あなたの人生の物語」続き

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というわけで、全部読みました。私の趣味では「あなたの人生の物語」「地獄とは神の不在なり」がツボに入った。全体的には良い作品集だと思う。どうもやはり私の観点はSF的な知識よりも、全体の形式感で楽しんで見ているようである。

さて、やっとリョサに戻れるか?しかしその上皆川博子の「薔薇密室」まで買ってきてしまった。うーん。

以下ネタバレあり。

あなたの人生の物語

言語学者のルイーズが異星人の言語を解読習得する話と、ルイーズがあなた(娘)に話しかける思い出?が交互に進むような形式だが、実は・・・というお話。この小説はアイデアと形式がうまくまとまっていて詩的でもあって好きだ。人間と異星人の言語認知がラプラス変換を通したように変わっているアイデアがおもしろかった。でもアイデアよりもすべてを見た上で、やはりその未来を受け入れるルイーズの心のあり方に惹かれる。私はこういう話に弱い。

七十二文字

ゴーレムを元にした生命科学の話だが、自己複製のプログラム論の話がわかっていないと楽しめないかもしれない。ただ、自己複製や自己言及(型の名辞)の話はSFとしては面白くても最近はコンピュータウィルスであたりまえになっているし、前作と違い「心」の面でくるものがなかったので、まあまあというかんじ。昔 Core Wars とかあったなあ。

人類科学の進化

ストルガツキーの「蟻塚の中のかぶと虫」を思い出した。いくら必死に人類が背伸びして超人類と競おうと思っても、超人類にとっては相手だとも思ってないだろうしなあ。そのあたりを皮肉っぽく裏返して書いているところがが楽しい。ついでに楽しいのは私の姓がスギモトだから。

地獄とは神の不在なり

これは気に入りました。が、エヴァンゲリオンを体験した後では使途を思い出してしまいますぞ。あるいはサイボーグ009の天使編かな。

どちらかというと宗教に対して距離をおいて考察しているところがおもしろい。天使降臨が実は単なる自然現象で、なんらかのエネルギー体の現象だとしても、人はそれぞれに神の意図を感じてしまうんだろうなあ。偶然かもしれんのに。またかりに神が存在するとしても、意図的かどうかは知りようがないのに、結局は認知論的に自分の都合のいいように解釈し、自分の宗教を作り上げていくのだろう。前の小説同様、神がもし存在しても蟻塚のかぶと虫以上の差があるだろうから神の意志なんかわからんよね。

完全に一方的な愛であることを認知しながらこの世界(神が存在するとして)を愛し、神(世界のあり方)に自分に対する意図や意志なんかないと心底熟知しながら、それでも愛することだけが、真の信仰なんだろう。結局天国と地獄には何の違いもなくて、そこにいる人がすべてに神を感じる(信じる)のが天国で、どこにも神がいないのが地獄ということか?私は間違いなく地獄です。

顔の美醜について

うーん、アイデアはまあまあですが、形式的にも内容的にもあんまりおもしろくない。つうか人間の価値観のあり方について、この程度のことは普通日頃から考えてるだろうという範囲なので。形式もあんまりうまく効いていない。

コメント

なお、「あなたの人生の物語」の解釈や感想は、すみ&にえさんの「ほんやく本のすすめ」サイトのネタバレ掲示板で追加検討中です。

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