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January 24, 2005

●カーペンターズ・ゴシック

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正月以来ウィリアム・ギャディスの「カーペンターズ・ゴシック」を読むのに取り掛かっていたのだが、やっと読了。でも面白かったから良いのだ。ポストモダンというかその区分はよくわからんのだけど、ピンチョンのように「人生いたるところに陰謀あり」、というか、ナボコフのように「部分こそすべてである」というべきか、どちらもありなので、そういうのが好みの人はすんごく楽しめるだろうけど、自分で話を組み立てることのできない人にはちょっと無理だろうなと思った。そういう意味では読者をすごく選ぶ小説である。

カバーの文句を引用しておくと、「答えのない謎、驚嘆すべき緻密な構成。再読、再々読によって浮かび上がる複雑な筋=陰謀。言いよどみ、中断、繰り返し、言い直し、脱線、他人の言葉の引用などに満ちあふれ、機関銃のような会話の織りなす黙示録的狂想曲」ということで。会話が基本で進んでいくんだけど、その間になんの区切りもなく登場人物の動作や周囲のTVの内容が入ったりで、読者としては、まず誰が誰に話している会話なのかあるいは電話なのかの切りわけた上で、物語の裏で何が起こっているのかを自分でパズルのようにつなぎ合わせていく必要があります。だいたい1回読んでわかるかどうかは難しく、2回目の読書のほうがおもしろいかも。

だいたい最初から KingCrimson の Red のように登場人物のテンションは上がりっぱなしの状況で、アフリカの鉱山に関する陰謀があって、それをキリスト教の布教を通じて行おうとするシナリオや政治的に反対側を意図するシナリオなどが複雑に絡まっていたり、CIAやFBIの動きがあったりで、その中で宗教や政治、金融的なしくみから電話によるコミュニケーションの不毛性まで現在の世界の状況(といってもこの作品は1985年なのだが)が、あまりにもあざやかに、心底体でわかるようになっています。このあたりの陰謀や全書的な感覚がピンチョンと比較される所以だろうが、文体から受ける感じは結構違うんですけどね。また、その会話や状況のピースそれぞれを楽しんでいくことが結構重要で、そうでないと挫折しちゃいそうな予感はあります。

資本主義と共産主義の対立やその中での宗教のあり方などあやしい陰謀が裏ではあちらこちらにありそうなのだが、舞台はカーペンターズ・ゴシック形式の邸宅での会話や電話の内容に限られているので、読み手としてはピンホールからのぞくように、回りに何があるのか起こっているのかを想像するしかない。で、もうなんでもかんでも詰め込んだ文体は結局この邸宅からの視点だと思うと納得がいくんだけど、出てくる人間たちは変に裏を持っているし、その割には主人公と言っても良いエリザベスはすべてから逃げ腰で、逃げれば逃げるほど回りの状況から締め付けられていくし。でも考えると、ポールが資本家や政治家(ポール自身はちょっとレベルは低いけどね)、ユード牧師は宗教家、マッキャンドレスは理系の知識層、ビリーはプー太郎を代表していると考えるとすんごくわかりやすい。そしてエリザベスは、世の中に不正や陰謀があっても自分には・・・と思って耳をふさいでいる一般民衆の代表なのだろうと思う。この人々の間には会話は成り立たず、一方的にわめき散らすか耳を閉じているかなんだなあ。

あと、電話によるコミュニケーションシステムや訴訟による不毛なシステムなど現代のアメリカの病巣を描いている気がするんだけど、1985年のことだから。。。と思うと、あまりにも現在の日本にも当てはまるのでびっくりしますね。で、現代だからアメリカは何か変わったかと言えば何にも変わらず「悪の帝国」が共産主義から独裁主義とテロに変わっただけで、ユード牧師の演説があまりにもこの前のブッシュ大統領の演説に似ているので笑いたくなるくらいです。

物語の解読は一通りは自分でやったんだけど、解説読んで、へぇーボタンを押したところもたくさんある。また、正確に割り切れる話ではないので、エリザベスの死因や、マッキャンドレスの病院の話など、怪しい部分はあちらこちらに残っているのだ。でもこれは余韻として好きに味わえばよかろうと思う。で、とってもしんどいけどとっても面白かったので、ギャディスのほかの本も読んでみたいなーと思うが、引用なども多くやっぱりきちんと翻訳してくれないとわからんのじゃろかーと思ったりもする。

で、推薦はしたいんだけど、ちょっと3,800円(税抜)という値段はひくものがある。つうか本の価値は装丁ではなく内容だという意味においては、読み終わった私自身はその価値はあると思うのだ、がやはり普通の300ページほどのハードカバーでその値段だとひくよね。でも「JR」やそのほかも出して欲しいぞ。ぼくはその値段でも許しちゃう(でも読者数を考えるとなんらかの陰謀が重ならないときっと無理だな)。翻訳の木原善彦さんは今大阪大学で教えているみたいだ。母校ジャン。大学時代にこんな状況だったら、こそっと文学部に講義とりにいったのになあ。

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