●シシリーは消えた
アントニイ・バークリーを読むのは楽しい。構成も出てくる人間も会話もひとひねりある感じが好きだー。そうはいってもまだ「ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎」や「絹靴下殺人事件」が積ん読状態のところで、「シシリーは消えた」とA.B.コックス名義の「プリーストリー氏の問題」の2冊追加。うーん、溜まっていくねえ、、、しかも全部ハードカバーだし。とりあえず幻だった「シシリーは消えた」から読んだけど、いつものバークリーで楽しかった。こういうのが好きだなあ。
読書録のほうには推理小説は入れてないんで、まあその場限りの記録ということで。私はバークリーでは「最上階の殺人」「ジャンピング・ジェニィ」といった壊れた作品が好きなので、推理小説をパズル要素のみでは全く読んでいないこと前提の評価になります。
「シシリーは消えた」は、当初A.B.コックス名義で新聞連載され、出版時には別の名義で出されたらしく(出版社の版権の関係なのかな?)、幻の作品だったらしいんだけど、執筆時期は「ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎」あたりとのこと。そういう関係もあってシェリンガムは出てこないんですが、バークリーらしい部分がいっぱいあって、とても楽しかった。
小説としては、招待客も入れたパーティーの中で、降霊会を開くことになり、暗闇の中でシシリーという女性が消えるという物語なんだけど、うまくやられた。罠のほうの筋にはまっちまいました。ポーリーンに、おばかさん、といってもらいたいです。実は人間消失トリックが主な話ではなく、一体何が起こっているのか?型の小説なんですね。そういうのは個々の小さなしかけがうまくまとまるので、なかなか楽しかった。でも本当にバークリーはまともなプロットじゃないなあ。探偵役のスティーヴンはシェリンガムにおとらない迷探偵ぶりで十分楽しませてくれるし。
ポーリーン萌え。バークリーの場合人物造型というかタイプがはっきりしているので、推理小説の人物として把握しやすいし感情移入もしやすい。この小説の場合はスティーヴンとポーリーンのカップルにうまく感情移入できるので、いいなあと思う。けっこうすっきり活躍しているし、しゃれた会話も好きだ。
レディ・スーザンのちょっとひねくれた元気のあるおばあちゃんがいいなあ。クリスティなんかでもでてくるんだけど、こういう知識は無くても人を見る眼だけでははずさない、善悪にはきびしいおばあちゃんっていいね。こういう人物像は日本でも少し前までは成立したと思うんだけど、最近は孫とかに甘すぎでだめですね。ちょっと宮崎アニメにでてくる元気なおばあちゃんに似ているかも。
翻訳のほうも、この小説の楽しさがパズラーだけでは無く、状況やカップルのしゃれた会話や女主人のひねくれ方にあるんだっていうのをうまく捉えた感じだと思う。しゃれた会話の部分がこなれた良い日本語になんないとバークリーの場合魅力半減だと思う。また、最後の終わり方は甘すぎるかもしれないけど、推理小説なんだけどシチュエーションコメディみたいなもんだからこれでいいと思う。すっきりだ。
「プリーストリー氏の問題」の解説にも「シシリーは消えた」の紹介があって少々物足りないという感想も書いてあるんだけど、その解説では英語題名がずっと間違っていたり、庭師が「偶然」同じ屋敷で・・・とか、ちと誤読っぽいことが書いてあったりするので、きちんと読めているのか怪しいかなあという気はする。バークリーの場合とにかく皮肉なあるいは裏の意味で会話がつながっていたりするんで、注意して読まないと危ないよなあと思ったり。