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March 28, 2005

●世界のレンズ ナズュレットの書1

マカヴォイの「ナズュレットの書三部作」を読み始めた。これは二巻まで邦訳ででていて、そろったら読もうと思いつつはや十年。まあ理由は売れなかったからか出版社が変わって契約に問題が出たのかはしりませんが、原書で3巻目を手に入れたので、何とか読むじゃろとの仮定の元に読み始めたのが、第1作になる「世界のレンズ ナズュレットの書-1」を読了。久々のマカヴォイで疲れたけど面白かった。アイルランドの作家って変な人が多いのかな。

アイルランドの作家ってなんだかゆがんだ人ばかりのような気がしてしまう。ジョイスやフラン・オブライエンもなんだか変だし、「隠し部屋を査察して」のエリック・マコーマックもアイルランド系カナダ人じゃないかな。ファンタジーでも「小人たちの黄金」のジェイムズ・スティーブンズなんかがあったような気がする。マカヴォイは「黒龍とお茶を」や「魔法の歌三部作」があるんだけど、どちらも普通のファンタジーにしてはねじれている気がする。「ナズュレットの書三部作」は主人公がかっこいいわけでもないし、すべてを両面で考えるような人間だし、魅力的なアーリンも皮肉を突き詰めたようなぶっきらぼうだし、師のポウルも変人だし、世界観は中世ファンタジー的な世界を一歩もでていないので、ファンタジーに夢とロマンを求める人には全然面白くないような気もする。でも私にはおもしろい。会話も皮肉っぽく裏の言い方してたりするんで、そのままのほほんと読んでると通じなくなっちゃいますわな。

「ゴブリンとあだなされる孤児ナズュレット。彼は4歳のときからヴェロンニャ王立全寮制男子校で過ごしてきたが、19歳の秋、独り立ちするために学校をあとにした。旅の途中で奇妙な建物に迷いこんだナズュレットは、そこで出会った魔法使いとおぼしき男ポウルに見込まれて弟子入りすることになった。その出会いが運命を変えるとも知らずに…。長じてヴェロンニャ国王の右腕となるナズュレットの波乱の生涯を描く3部作開幕。」という粗筋だけ引用すると全く普通の少年成長型ファンタジーなので、マカヴォイのおもしろさを全然伝えようがなくて困る。つうかポウルは魔術師じゃないし。そう、マカヴォイがおもしろいかどうかは、自分で考える、すなわちナズュレットと同様師から与えられた狂気をもっているかどうかによるような気がする。世界のレンズであろうとするナズュレットの意識に共感できるかどうかが大きな分かれ目なんだろうな。このファンタジーにはきらびやかな部分はまったくない。ので、いかにナズュレットの視点を愉しみ、アーリンの会話に喜び、ポウルの指導を味わうしか楽しみようはないんだけど、そこが楽しくなってくるとこれは得がたい本になるのであります。

このあたりには、この本ばかりでなく一般的な読み方として、自分の読み方しかできない読者と、作者の意図を考えてその上で遊んでやろうとする読者で大きく別れるような気がする。まあ接点はないんで他人がどう読んでいようと関係ないんだけど、面倒なのは自分の読み方しかできない読者には、作者の意図の上で遊ばないと面白くないような本の面白さを伝えられないことなんですよね。この本の場合は、あらゆることを正と反で透明に考えていく、あるいはいこうとするナズュレット自身の考え方自体が読者にも要求されるんじゃなかろうか。

さて、一応最後には出生の秘密とかアーリンについてとかポウルについてとかいろいろわかってカタルシス、となるはずなんだけど、なんか全然そうならずに放り出されたままのような感じなのはナズュレット自身がそのことに深い興味をもってるわけじゃないからなのかな。2巻では隣国のレズミアに向かうんですが、まだ読んでる途中です。設定だけだとフィーストの「王国を継ぐもの」のように感じてるんだけど、そのまま物語を単純に楽しめばよいフィーストと、物語自体ではなくナズュレットを通してみる世界の姿に興味があるマカヴォイの違いがわかっておもしろいね。

コメント

はじめまして。
3巻がいつまでも出た気配が無いのでネットで検索していたところこちらにたどりつきました。
人気が無かったのでしょうか…。
当時中学生だったんですがもういい年になってしまいました。また違った読み方が出来て楽しそうですけどね…。

小夏さんはじめまして。

私もねえ、「魔法の歌」が気に入って「ナズュレットの書」を購入して、全部出たら読もうとか思っていたらもう二十年経ちました。ははは。英語の本も購入したんですが三巻はまだ読む暇がありません。これなら最初に二冊だけ読んでいても同じことでした。

どうもやはり「魔法の歌」ほどには盛り上がりもなく、売れなかったんじゃないですかね。あの頃はまだファンタジーも今ほど盛り上がっていなかったし。

今のほうがきっと深い読み方ができますよ。

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