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May 05, 2005

●フライアーズ・パードン館の謎

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推理小説は黄金期のものが良いなあといいながら、あんまり読んでませんでした、すみません。フィリップ・マクドナルドとロス・マクドナルドも一部思い違いしてました。さて、原書房のヴィンテージ・ミステリのシリーズの「フライアーズ・パードン館の謎フィリップ・マクドナルドを読了。クリスティとかに慣れていると犯人はある程度すぐわかっちゃうんだけど、その雰囲気と構成を楽しんだ。ただちょっと設定と登場人物は類型的で弱いかもしれんなー。他にも探偵の件でちょっと不満はあるんだけどそれは以下で。また、愉しんだのは良いがハードカバーは値段もかかるし場所もとるというのが欠点じゃな。でも藤木稟の「殉教者は・・・」よりはおもしろいぞ。

そうそう、中の記述で「ウッドハウスに出てくるみたいな若者」とか「ウッドハウスのジーヴスのような」といった表現があって、「比類なきジーヴス」先読んでおいてよかったよーって感じ。この時期の他の本にも出ているとかいうので、やはりウッドハウスはみんな読んでいたんだなあ、と本作とは関係ないところで感心した。

もともとフィリップ・マクドナルドが他の名義で書いたものらしい。英国黄金期の代表作!とオビに書いてあるけど、代表作・・・にはちと弱いかもしれん、が、その設定はさすが黄金期、英国の因縁ある大邸宅です。オビには、「女流作家にして大富豪の女主人が殺された。密室で溺死していたという。しかも数分前に彼女の声が聞こえたと。犯人と”水”は一瞬にして消えた・・・のか?」とあるけど、物語の半分は昔の因縁ある屋敷で幽霊に殺された?という振りが結構大きいので、それを抜かすのはちょっといかんのではないだろうか。

そういう意味ではカーの「読者よ欺かれることなかれ」やバークリーの「シシリーは消えた」とかを思い出した。この時期の上流階級の屋敷では娯楽で降霊会をやるのが流行っていたのかなー。そういえばクリスティの「シタフォードの謎」にもなかったっけか。この振りに関してはまあそれなりに楽しいんだけど、ちょっとやりすぎかなあという気もする。ちょっと納得いかない部分はネタバレありコーナーで。ネタバレではないんだけど、もう少し納得いかないのはバランス的に女主人が死ぬまでが少し長いように思う。いや、構成上の要求や絶妙の展開があればよいのだが、やはり前半は幽霊話と人々紹介に近いので、ちょっとつらい。さすがにそういう部分はクリスティーはとてもうまかったんだなあと改めて思った。またバークリーのように皮肉のきいた言い回しや表現もないので、ちょっと退屈である。

また、探偵小説の愉しみって、こちらにも親しみのある名探偵がでてきて・・・というのがあるんだけど、バークリーの「プリーストリー氏の問題」のように他人名義で書いたこともあってか、探偵に親しみをもてないのはちょっと欠点かもしれない。もっとも私マクドナルド読んでないのでゲスリン大佐がでてきても同じことかもしてないけど。屋敷の構成もイメージできなかった。綾辻逝人の館の無意味な見取り図ではなく、こういう本にこそ必要なんだろうなあと思う。なぜなら雰囲気を愉しまなくてはいけないから。また登場人物の一覧表も欲しかった。

以下ネタバレあり。注意せよ。

犯人については書いたとおりクリスティとかに慣れているとある程度わかるが、それは欠点だとは思わない。トリックも普通だと思う。ただ幽霊の因縁話を山ほど入れておきながら、かつての所有者の死に関してはなんにも触れないのはちょっと悲しい。まあしょうがない気もするけどね。最近はせちがらくなったせいか、その部分までなんか合理的な説明がないと納得できんような気もするのだ。ただそうすると以前の死の状況が同じかどうかとかいろんな説明が必要になるんでちょっと無理じゃなあとはわかる。あと共犯者については印象が薄すぎてイメージできず。登場人物の一覧表の必要性を深く感じた。せっかくのハードカバーなので屋敷の構成や登場人物の一覧表は欲しかった。

探偵のチャールズ・フォックス=ブラウンはかっこよすぎ。ちょっと完全に盤外の人で、これでよいのだろうかとも思うが、まあそんなもんかもしれん。

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