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May 17, 2005

●ポートベロー通り

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某所でのミュリエル・スパーク祭に乗り遅れていたんだけど、先週末に某書店の教養文庫ある限りセールで発見したので購入できた。前の引越しのときに間違って捨てたらしく、とても悲しい思いをしていたのだが、発見時のうれしさはたまらん。これも仕事で理不尽な忙しさを熾天使が見ていたのだと信じよう。ミュリエル・スパークは「死を恐れるな」と「マンデルバウム・ゲイト」を積んであるが読んでなかった。「ポートベロー通り」は幻想短編集ということで幻想的・・・というよりは変なのが多い。つうかスパークってやっぱり全部変なの?でも面白すぎるので、他の本も読もうと思う。

ミュリエル・スパークは「死を恐れるな」と「マンデルバウム・ゲイト」は積んであるが、他に太陽社の「現代イギリス女流短編集」を持っているので、今回その分も含めて短篇一気読みである。けっこう週末仕事とかで忙しかったんですけどね。でも亀田の柿の種スーパーパック6パック入りのようで、一袋(一話)だけと思ってもついつい手が出るという感じの11話であった。イギリス女流の短篇ということで、ちょっとすかしたあたりE.ボウエンとも似ている部分もあるんだけど、スパークのほうが変だしひねくれてるし、思いもよらぬ展開で楽しい。ボウエンは良いのだが続けて読むと飽きる(私にとっては)。がスパークは飽きようがない気がする。

経歴を見ると戦時下のイギリスで外務省情報部に勤務していたりで、ジャンルは少し違うけど、ジェイムズ・ティプトリー・Jrと似ているなあと思ったりする。そのちょっとひねくれた感じや少し頭のよさそうな人々を徹底的に馬鹿にした感じからすると、本当に頭の良い女性たちだったのだろう。70年代ジェンダー問題のフェミニスト文学とかもあるわけだけど、この二人からするとそんな低レベルの話は笑いの種なんだろうね。男性のバカさもみえているし同姓の女性の愚かさも見えちゃっているわけだから。

おはなさんの解説ページ以上に付け加えるものはないんだけど、「熾天使とザンベジ河」が処女作とはけっこう恐れ入りましたぜ。「ポートベロー通り」「遺言執行人」とかが好き。「リマーカブルという名の劇場」はもうカルヴィーノのコスミコミケの続きかと思った。一番感動したのは 「わが生涯の最初の年」で、笑うしかない怒りに久々に感動しました。翻訳のですます口調は気になったけど、途中からその変な丁寧さが逆に嫌味っぽくて良いと思った。翻訳者がそこまで考えてのことかはわからないんだけど。あと、教養文庫で各編のタイトルページに何行か書いてあるんだけど、ちと中身が想像できちゃうんで無いほうがよろしいとも思った。

以下、ネタバレに近し。でも読んだ人でないと意味わからないと思うので問題ないかもしれない。

「もう一人の手」
これはちょっと展開想像できたけど、そのひねくれた感じが好き。まったく本筋ではないんだけど、亡くなった母親の一徹さが楽しい。薬を嫌がるのもおもしろい。平然と話をしているのもおもしろい。ウィル・セルフの「北アイルランド死者の書」をちょっと思い出した。

「遺言執行人」
なんか長編にすると、きっとそのままジョナサン・キャロルなんですけどお。亡くなった作家の嫌味っぽさが楽しいなあ。その態度に恐れるよりも怒る主人公も楽しすぎる。

「アリス・ロングのダックスフント」
結局本当に起こった事が曖昧なので、雰囲気が出ている。最後の踊る子供の気持ちや内容はボウエンの少女作品に近いと思った。

「落ち葉掃き」
ダブル・ダブルに入っていそうなお話。ジョージも面白いけど、怒ってつれいていく語り手も語り手だよな。

「悲しい冬物語」
ちょっと酔いどれ具合とその自分の生きかたの割り切り方というか達観の仕方が素敵だと思う。悟りに近いんだろうか?一般人にはわからんということでしょうなあ。原題が「A Sad Tale's Best for Winter」で内容から行くと、「冬にすんごく合う悲しい物語」って感じかなあ。でも死期を知っている主人公は悲しくないんだよね。周りの俗世間の人間にはその悲しくないところが理解できないつう皮肉っぽさがたまらん。SadとBestの語感のアンマッチが楽しい。

「わが生涯の最初の年」
久々に感動しました。もはや人類のおろかさは人類には批評する資格は無く別種族でありかつ無原罪の赤ちゃんにしか批評できないんだろうなあ。その赤ちゃんでさえ呆れて笑ってしまう演説が効果的で面白かった。が、全体は「怒り」だよね。

「詩人の家」
抽象的な葬式もいろいろに考えられそうで、どう判断してよいか難しい。デレク・ジャーマンの「WAR REQUIEM」のイメージから離れられなくて困った。オーエンの詩によるもので、この詩人もオーエンなんだっけ?抽象的な葬式を渡す兵士が先祖がえりというのも、現在の人類への種としての葬式みたいなイメージなんだろうか?

「ザ・ドラゴン」
気軽に面白かった。これは本当に火やガスを噴出してるふうにイメージしたほうがおもしろいすね。

「リマーカブルという名の劇場」
カルヴィーノの「コスミコミケ」の中の一作のような感じ。

「熾天使とザンベジ河」
ナボコフの「翼の一撃」を思い出した。世の中いろいろな天使があっておもしろい。スキー場は寒いので毛むくじゃらなのかなあ。アフリカは熾天使がいるから熱いわけじゃないよね。一部テッド・チャンも思い出した。スパークの場合、最初から登場人物はあまりにも作中人物であることを意識した存在だったんだなあ。魔術的リアリズムといえばそうなんだけど、北半球の欧州のクリスマスと南半球のアフリカのクリスマスのイメージや認識の差のほうが、南アフリカのクリスマスと熾天使出現の差より大きいんだわな。

「ポートベロー通り」
わたしがうれしそうに声かけるあたりがひねくれすぎていて良い。あの頃へ戻りたいと思わないというのも強いなーと感心。鉄の女の国は違うなーと思った。こちらでは「ニードル」なんだけど、他の本では「お針さん」と訳されていて、それはニードルのほうがいいかな。

以下は「現代イギリス女流短編集」太陽社から。「詩人の家」と「ポートベロー通り」は重なっているので書かないけど文体でえらく感じ方が違うなあと思った。教養文庫のですます調のスパークはけっこうおもしろい。こちらで重なっていないものは幻想というか幽霊やそういうのはないんだけど結局愚かな人間を見る目ではなんら変わりは無いのでやはりおもしろいのだった。

「黒眼鏡」
精神分析的解釈をちゃかしていて、ナボコフみたいでおもしろいな。ついつい探りいれちゃう語り手もおもしろい。みんな暗黙の理解の上で虚構で暮らしているのね。

「そよ風にゆれるカーテン」
嵐の予感とでもいうべきか、その象徴と事故の起こった現場としての象徴といろいろな意味があっておもしろいタイトルじゃなあと思った。終幕は想像される範囲だけど、そういう女性に育てたのが看護婦たちだというのが、けっこう嫌過ぎる。ジァニーがためらいも無く撃つのがいいね。

【追加】その後、「そよ風にゆれるカーテン」の最後を英語で見ていたんだけど、自分が全然わかっていないことに気付いた。最後の離れる時の兄との会話は相当意味深で、しかも兄はわかっていないというところに味がある。けど、邦訳ではそれを理解するのはちょっと難しいかな。

「僕はここを離れたい」という言葉に対して、私が「私たちは離れたい」と劇の台詞であるかのように緊張しきって答えて、兄が「じゃ、僕たちは荷造りしようか」とある意味頓珍漢な返答をしたので気付かれていないのだ、と安心したところに意味があるのだ。私は「私たち」が離れなければいけないと言っているのに、兄は「ここを」離れたいととらえているわけで、それで初めてフランクが兄に似ていることとか、その後。「いいえ」と答えて一人イギリスに帰ることとか、一番最後の「予測できる」という部分が深い意味を持つんだよなあ。そういう意味では邦訳にはちょっと問題があると思う。

「双子」
いやあ、あまり人間というものを好きでない私にとっては、「あるあるあるある!」という話だった。他人に気を使うつもりで結局自分の価値観を守るために生きている人とはやはり付き合いたくないよなあと心底共感する小説だった。

「ゴウ・アウェイ・バード」
これはなかなかすごいっすねえ。マルケスの南米ものみたいだ。ダフニがこの世で居場所が無くなるのもすごいし、ダフニとしてではなく鹿として殺されちゃうのも象徴的だなあ。結局レイフだけが彼女のことを少しでもわかっていたのだろうか?

コメント

なおきさんこんばんわ。
おはなです。
ふとしたことで気付きました、あひゃ〜拙スパ宮にリンク頂いてたのですね!有難うございます。
しかしなおきさんはこんな頃から1人でスパーク祭りされてたんですか‥教えて下さいよ(笑)。それにしてもスパーク古書の入手困難は相変わらずで、現物では古い版の『死を忘れるな』を2回見たことがあるだけ、でしょうか。マードックものはごろごろ転がってるのに。
今度スパナボ祭をされる時は是非お声を書けて下さいね。大漁旗仕立てて来ます‥ちょっと違うか。

おはなさん

勝手にリンクしてすみません。ひそやかに屋台の夜店風に時々お祭しています。「死を忘れるな」は偶然90年の復刊時に買っちゃったんですが、まだ積んでいます。今年のお祭で・・・「シンポジウム」とあわせるとすみ&にえさんとおんなじになっちゃうんですよね。

シンポジウムはいまだに池袋のリブロの棚で流通在庫をみかけます。はやく誰か買わないかなあ。(自分で買っておくか)

ナボコフは・・・今年の後半はどれに行こうか考慮中。マーシェンカあたりでお茶を濁すかもしれません。ナボコフでなくヘルプリンにいったりして。

では、またお祭りよろしくお願いします。

なおきさんこんばんわ。
ふぅ〜屋台に涼みに来ました(笑)。連日で済みません。
わぁ、90年復刊からの『死を忘れるな』でしたか。私なんかよりずっと早くからスパに馴染んでいらっしゃったのですね。その後『マンデル』の方も行かれましたか?私はこれが初めてのスパークで、今は他の作品や短編などの方が質がよいと思うのですが(何たって長いでしょ?)、でも長くて苦労して読んだからスパって凄いという印象を持ったのかも知れない、などと考えています。
えっ流通スパ本なんてまだあるんですか〜私は結構な値段で古書を買った記憶が‥。
まぁっひょっとしてヘルプリンまでかぶるかも?!それは楽しみ。あの人もマイナーというか何というか‥(笑)。童話を除いて全部読んだのですが、うぅむ、実はちょっと複雑な思いを抱くようになってまして‥これはまたなおきさんがヘルプリンを読まれてからお話に来ませう。

あまりおもてなしできませんが、ごゆるりと。

いやその頃はあんまりわかってないんですよね。国際ブックフェア記念復ね刊でのコピーが面白そうなんで買ってそのままってかんじです。「マンデルゲート」もってますが、これもどちらかというと「ドーキー古文書」ねらいで、しかもどちらも積んだままという。。。

私も「ホットハウス」ほしいのですが、なかなか古本でもみませんねえ。

ヘルプリンは「兵士・・・」が積んでありますが、予定を見てみると今年はきついかも、ですわ。まあナボコフやスパークの路線とは全然違うんで、ヘルプリン向きの精神状態じゃないと読めないかも、です。

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