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November 30, 2005

●歌う砂―グラント警部最後の事件

book-Tey-01.jpgジョゼフィン・テイというと「時の娘」をずいぶん昔に読んでもちろん面白かったんだけど、あんまりグラント警部に思い入れもなければ、文章や情景の描写にも気づかなかった。。。というのはほとんど病室の中のわけで。でも看護婦とかの人物の使い分けはうまかったような印象がある。で、論創社の「歌う砂―グラント警部最後の事件」を読んだらこれがおもしろくておもしろくてたまらん。もっともパズラーではなく、前半部分はもう事件的にはなんにもないままにグラント警部再生物語なんだけど、それがおもしろい。

乱歩が読みたがったということなんだけど、あんまりトリックや事件の不思議さで追っかける本ではないだけに、読んでそう思ったか知りたいなあ。というわけで星4つ(4.5でも良いけど推理小説としては物足りない人がいるかもしれないので)。

まず出だしから神経症を病んでいるグラント警部がおもしろい。全然現代といっても不思議ではないようだ。その旅先で列車内に死者とあうところから物語は進むんだけど、その過程や旅先での人々とグラント警部が復活していく姿がおもしろすぎる。ティ本当にうまいなあ。「時の娘」ばかりが有名なんだけど、それって病室の中だけなのでこういう広がる描写という点では損をしている気がする。うーん、テイ全部読みたいです。。。。

トリックというか小説の柱となる「歌う砂」の詩を追いかけてヘブリディーズ諸島に行くあたりは島田荘司の「飛鳥の赤い靴」を思い出しちゃったよ、まったく。プロットだけからいうと意味は薄いんだけど、やはりグラントが復活するのがひとつの主題だとすれば、これはとてもおもしろい。でてくる人間がまた楽しいというかよく表現されていて目に浮かぶようである。また魅力的な女性陣が多いね。ヘブリディーズ諸島だあ、と思って、グランヴィル・バントックの「ヘブリディーズ交響曲」でも聴きながらだとなおよろしい。でもバントックは生粋のロンドンっ子であったらしいが。ヘブリディーズ諸島にフィンガルの洞窟もあるということらしいので。

で、トリックは実はあんまりないけど、最後の犯人の悪意とか思い上がりはなかなかよい。自己意識の増大の仕方と最後にグラントに言われる内容あたりが趣き深い。また、パズラーや犯人当てではなく、事件も魅力的なのか微妙なだけに、テイの表現能力の豊かさが序実に小説の魅力につながっている。犯人あてをやりたい人にはまったく不向きな小説なのだが、私が思う本格とはこういうのでもあるのだ。小説としての味を楽しみたい人には向いていると思う。

「時の娘」ではその表現能力はあんまりわからなかったんだけど、テイ面白い!というわけでこれも読もうと思う。「フランチャイズ事件」「ローソクのために1シリングを」「美の秘密」「魔性の馬」を準備いたしました!もちろん「時の娘」も再読しなくては。

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