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April 12, 2006

●列のなかの男

book-Tey-02.jpg自分の読書録を見直してみると、今年はSFと推理小説ばっかり読んでるなあとわれながら呆れる。呆れるがまだまだ溜まっているので仕方ないのだ。特に論創社からは毎月3冊も出てくるので、好みによって選ぶにしてもそれでも溜まっていくのです。ジョセフィン・テイは前にも書いたとおり「時の娘」は前から読んでいたんだけど、「歌う砂」ではまった。で、ほかの本も集めたので読もうかと思っていたんだけど、グラント警部の最初の事件である「列のなかの男」が出るということで、それなら最初からいこうと思ったのである。

で、最初はあんまりおもしろくないかなあと思ったりしてたのですが、途中からやはり引き込まれてしまった。どうもテイの作品は普通の推理小説って思って読むとはずしかねない。これは事件を楽しむ小説ではなく、事件をグラント警部がどう思ったかを楽しむ小説なのである。もう犯人を追いながら、休暇をとらなくては、釣りだ、と考え続けているところがおもしろい。事件そのものは、、、最後は、これでいいのか?というアンチ推理小説でありながら成立しているのは、やはり主体が事件ではなくグラント警部の内面だからなのだろう。したがってグラント警部の内面にうまくあわせられないと全然面白くないと思う。というわけで星 3.5 でも好事家には推薦しておきたい。事件自体が・・・ちょっとね。でもハイランドへの追跡は面白いぞ。

「評判のミュージカルの最終公演、観劇のために並ぶ人の列。その中でひとりの若い男が殺された。事実関係から事件は一見単純そうに見えたが。。。」という犯人を追って、最初は警察小説のようではありますが、どんどんグラント警部一人の内面の話になって、おいこれでいいのか?といいたくなるような展開の上に、最後のへなへなとなるような終わり方まで、うーん、楽しい。でも「これは推理小説じゃないやい!」と嫌いな人が多くても不思議じゃないと思う。こんだけ思い込んで活動してよいのか?

まだ3冊しか読んでないのだが、ジョセフィン・テイは「時の娘」ばかりが有名なんだけど、「時の娘」で代表とするのはちょっと違うんじゃないか?という気になっている。この2冊ははっきり言って推理の部分なんか味付けだし、登場人物のなかでは犯人や被害者容疑者なんかよりもグラント警部が一番弱っているような気もするし。そういうグラント警部の心の旅路を楽しむ本であって、他は事件も含めてその付け足しなのだ。その意味でもあんまり「時の娘」だけを薦めるのもどうかと思う。

本人は意図してないだろうし、他の本がどうかわからないんだけど、この初作では、グラント警部はハイランドと苦い関係なんだけど、最後の「歌う砂」では警部が再生していく地でもある。なんだかスコットランド出身のテイの故郷への複雑な思いとその変貌を勝手読みしたりしています。

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