●虫の生活
ヴィクトル・ペレーヴィンは角川書店(つうかキャノンゲイト社だな)の「新・世界の神話」シリーズに「The Helmet of Horror」というタイトルで書き下ろすらしい。ギリシア神話の英雄テセウスと迷宮の怪物ミノタウルスの物語らしいが、ぜひアトウッドのようにはならないでくれー。まあペレーヴィンなら大丈夫かな、つうかわけのわからん多層なものになりそう。。。
というか、私はまだ「眠れ-青い火影」しか読んでいないので、今回「虫の生活」を読んだのだが、いや、これがおもしろい。おもしろすぎるぞ。でも、全然わかった気がしない。というわけで仕掛けといい隠喩といいナボコフ系の好きな人に向いているかもしれない。この小説では、人が虫になり虫が人になり、それぞれにすれ違い、人生(あるいは虫生?)での何かを見つけて、あるいは失っていくのだ。ターボリアリズムとやら全開ですな。一見連作短編集のようにも見えるけど、この蜘蛛の糸のような構成は、長編小説といってよいと思う。また、SF作家とジャンルわけされたりもするみたいだけでど、普通の文学作品です。自分的には「青い火影」よりおもしろくて、他の人(虫?)にも推薦したいので星4.5ということで。で、私は何虫?でぶの虫っていたっけ?
ペレーヴィンの「虫の生活」はやっぱり変だ。「人生は虫の生活に似ているなどと思ってはいけない。宇宙に行き交うものすべてが変態を続ける虫の自我の現れなのだから」・・・カフカの「変身」と比しての紹介文がでるのはまあ仕方ないけど、だいぶ方向性は違うと思います。なんつうかデジタルな感覚・・・といっては伝わらないんだろうけど、「変身」のような不条理感はなく、当たり前に人と虫の間を行き来して、しかもそれがとても普通に進むところがすごい。それを支えているのがターボリアリズム?な的確な描写力である。
また、「眠れ-青い火影」は短編集だったこともあって、アイデアが優先的な感じもあったけど、「虫の生活」では連作短編のような構成でもあるけど、しっかり人間関係(というよりは虫関係か?)が織り込まれているのと章間でのうまい相似形というかからみというかそのあたりがおいしい。また変な哲学的な会話や言葉遊びも含めて、ナボコフファン向けかもしれん。でもさすがにナボコフほどにはまだちょーっと物足りないかなあ。
ペレーヴィンはSFに近い「風刺的・哲学的幻想小説」とでも呼ぶべきジャンルの書き手ということだが、この「虫の生活」はSFというよりは辺境の文学としてボーダーにあるのかもしれない。でもわかんないことも多いので、またそのうち読み直したいなあ。他にも「オモン・ラー」「『黄色い矢』号」「チャパーエフと空虚」「ジェネレーションP」などがあるので、翻訳されないかなあと思う。ピンチョンも冬には新作でるみたいなので、「Mason & Dixon」も翻訳されないだろうか。。。でも難しいよね。