●猫の手
なんだかきちんとした推理小説が読みたくなったので、ロジャー・スカーレットの「猫の手」を読んだ。うーん、これだよ、これ。館ものはこうでなくてはいかん。隠れ通路などではなく、数十年も堆積した歪んだ世界とそこで醸造される歪んだ動機が、味なのである。 で、「猫の手」では古い屋敷に住む老富豪と、彼の財産を頼りに生活している甥・姪たちがいい味出してます。 こうでなくてはいかん。大技はありませんがなかなか決まっているぜー、というわけで星4つ。
で、うれしくなってつづけて江戸川乱歩の「三角館の恐怖」を。これはスカーレット続きなわけですが、これもなかなかおもしろかったっす。こちらのほうが乱歩が惚れ込んだだけあってさすがに凝っている気がするし、乱歩の書き方がおもしろいけど、この手のおどろおどろしさは今の私の好みではない。が、うまく翻案していることもあって最後まであれやこれやだまされたのでこちらは星3.5ということで。元の「エンジェル家の殺人」も入手すべきかのう?
「猫の手」は古い屋敷に住む老富豪と、彼の財産を頼りに生活している甥・姪たちが醸造する歪んだ雰囲気の元、富豪の誕生日におこる殺人事件。前半分がそれまでの経緯みたいになり、殺人が起こるまでは長いのだけど、館ものでは何が起こっても不思議でないという歪んだ感覚が重要なのでこれはこれでよいと思う。まあ犯人はわかっちゃったわけですが(ある意味犯罪の起こる前に)、それはそれで楽しむことはできました。また、ケイン警視の示す三つの手がかりがそれぞれ小技三つをうまく相互に組み合わせていると思います。4回転ジャンプはないけど、コンビネーションで決める感じ。この組み合わさっているところがミソで、これがばらばらだと面白くないんじゃのう。このあたりが本格になるかどうかの分かれ目であります。で、これはけっこう好き。
ただ一点、これだと「彼」には犯人もわかっているはずなんだけどなにもしていないなあ、的な疑問は残るけど、全体にうまくまとまっていると思う。また最後のがアンフェアという評もありますが、まあ仕方ないし、あってもなくても犯人はわかるわけで、私にとってはどちらかというとコロンボを思い出させるような証拠でしたわん。
一方「三角館の恐怖」のほうはロジャー・スカーレットの「エンジェル家の殺人」に惚れ込んだ江戸川乱歩が翻案という形で戦後日本に舞台を置き換えての作品です。ほぼ筋書きやトリックは同じようですが、書きっぷりはさすがに乱歩そのものです。ただ、最近の私の好みではこのどろどろ部分はないほうがよいので、自分にとっては原作のほうがよいのかもしれん。でもわざわざ探して読み直すほどではないなあ。こちらはうまく最後まで犯人がしぼれすやられました。あちこちにあるけど、動機は確かにおもしろいなあ。また、エレベーターの殺人も篠警部が早いうちに方法を明かすわけで、すなわちこういう物理トリックが作品の柱になっているわけではないのがよい!下手な推理小説だと物理トリックを最後にとうとうと満足げに説明するのが多いけど、そんなの本格じゃないやい、という気分でございます。