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May 28, 2005

●ハムレット復讐せよ

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マイケル(マイクル)・イネスの「ハムレット復讐せよ」をずいぶんとかかってやっと読み終わった。いや、しかしこれはおもしろいし、最近読んだ推理小説ではもっとも「うーん、おれの求めていた本格ってこれなんだよこれ!」って感じでした。やはり良い!スカムナム館のゴチックな異界としての世界もいいし、「ハムレット」劇の中での殺人という構成も良い。悪意というか知性と悪戯心とユーモアと自尊心で自滅する犯人はすばらしい。そんな犯人こそが事件を華麗に演出し、推理小説を本格にするのであります(やはり「偶然」はあかんよ)。人によって評価はそれぞれだけど、僕には推理小説という分野の大傑作だと思う。ということは私の中で「本格」というジャンルは他の人とちがうのかもしれん。「人それぞれに本格あり」。最近のライトノベルを本格と思っている人は読まないほうが吉。

「英国有数の貴族ホートン公爵の大邸宅で、名士を集めて行われた「ハムレット」の上演中、突如響きわたった一発の銃声。垂幕の陰で倒れていたのは、ポローニアス役の英国大法官だった。事件直前、繰り返されていた謎めいた予告状と、国家機密を狙うスパイの黒い影、そして、いずれもひとくせありげなゲストたち。首相直々の要請により現場に急行したスコットランドヤードのアプルビイ警部だが、その目の前で第二の犠牲者が…。英国本格黄金時代を代表する名作。」

というわけで、まずまるで写真か絵の中のようなスカムナム館の描写から始まって、徐々にクローズアップされ関係者が動き始め、今到着した自動車でのお客の足元に謎の予告!という文章がすばらしい。同じ(規模は全然ちがうけど)ような館ものでもあったフライアーズ・パードン館とは書きっぷりが違います。好きやあ。これぞイギリス、ということで時代は少し違うんだけど「英国式庭園殺人事件」なんぞを思い出してみた。やはり設定もそうだが後半を考えるとコチック小説の良い部分を上手く取り入れていると思う。もちろんその表現も良いのだが、各登場人物の会話や小さいところにイギリス流の皮肉っぽい表現がうれしい。最後のエリザベスの活躍も一歩間違えるとぼろぼろなんだけど、僕にはうまく嵌っているように見えました。アプルビイ冷静でちょっと最後嫌味っぽいのもいいなあ。

また、イネスの書き方が、シェークスピア劇を意識してか、劇のような構成あるいは書き方になっているような気がする(私が影響受けているだけかもしれないけど)んだけど、その重厚さと軽さの同居がよい感じだ。第一の殺人や第二の殺人の章の終わり方も劇的で良いと思う。そしてでてくるシェークスピアからの引用も楽しいし、その内容が事件の構図に深く関わっているのも良い。また、書き方の技術としても、これらのコマ割のような、あるいは思い切って事件後の描写を切ったりするので、アプルビイ警部がもう一度説明していても助長に思わずに済んでいるように思う。これは、後半の加速した表現でも同じで、起こっている事を微妙に省略して記述することでスピード感をだしながら、最後の警部の説明が単なる繰り返しにならないようになっていて、うまいなーと感心した。その他細かいところで証拠となりそうなものを散らばらしてあるのもうまい。これってけっこう良い推理小説の教科書なんじゃなかろうかと思ったり。

最初に書いたとおり、一番うれしいのは、「偶然」なんかじゃなくちゃんと犯人が悪意と自意識を持って事件を飾ってくれていることである。私の「本格」はこうでないといかんのだ。やはり事件のどんな装飾も犯人の美意識でないと面白くないね。「Fuck!偶然」。そういえば、事件全体の構成からいくとこの犯人じゃないといかんのだよねーと後から思った、愚かな私。

「ある詩人への挽歌」を読んだときはそこまでは思わなかったので、わしも成長したんだろうか?もう一度読み直してみたいなあと思う。また、「ストップ・プレス」も早く出版されないかなあ。

コメント

 こんにちは。
 昨日『ある詩人への挽歌』を読み終えました。イネスに初挑戦だったのですが、ウワサに聞いていたほど読みにくくはありませんでした。
 ただ文学からの引用が多いという印象は持ちましたけど、クイーンやヴァン・ダイン、セイヤーズで鍛えられていますので、さほど気にはなりませんでした。『ハムレット復讐せよ』は前々から興味があるのですが……。
 ではでは

その後イネスのものも何冊か読みましたが、まともな推理小説としては「ある詩人への挽歌」や「ハムレット復讐せよ」がおもしろかったですね。その後のものは推理部分よりはイネス流冗談小説的な部分がおもしろいです。

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